イスラエル人化学者、量子トンネル効果を利用して芳香族状態を切り替える分子スイッチを発見

編集者: Irena I

分子システムのダイナミクス研究に新たな地平を切り開く画期的な成果が、イスラエルの科学者たちによって達成されました。ベン・グリオン大学の研究者らがテクニオン工科大学と共同で、芳香族状態と反芳香族状態の間で超高速の切り替えが可能な分子を発見したのです。この現象は量子トンネル効果の原理によって厳密に制御されており、材料科学の発展に計り知れない可能性を秘めています。

研究の焦点となったのは、「ジナフト-[2,1-a: 1,2-f]ペンタレン」と呼ばれる分子です。この分子の核は、二重の環状構造と結合したペンタレンから構成されています。詳細な計算の結果、電子構造に非対称性が存在することが明らかになりました。具体的には、一方の環が芳香族特性を示すのに対し、もう一方の環は反芳香族特性を示すという、内部的な構造矛盾を抱えています。この構造的な不均衡こそが、量子トンネル効果を介した形態間の瞬間的な遷移を可能にする決定的な要因となっています。

この研究で得られた重要なデータは、炭素原子のトンネル移動が極めて速いことを示しています。主任研究者であるセバスチャン・コズフ氏は、この驚異的な速度はエネルギー障壁の幅が非常に狭いことに起因すると説明しています。このような急速なトンネル効果は稀な現象であり、この分子とごく少数の反応タイプでのみ観察されると彼は指摘しました。本質的に、この分子は芳香族性と反芳香族性の両方を同時に持つ「重ね合わせの状態」に存在しており、これは思考実験である「シュレーディンガーの猫」の概念と類似する側面を持っています。

ベンゼンなどの芳香族構造は伝統的に安定していると見なされますが、ペンタレンのような反芳香族構造は不安定であることが特徴です。しかし、この第二の状態の正確な性質については、科学界で議論が巻き起こっています。ミケル・ソラ氏は、指標が真の反芳香族性ではなく、非芳香族性を示している可能性があると提唱しました。これに対し、コズフ氏は、用語上の意見の相違があるにせよ、形態間で芳香族性の変化が観察されたという事実自体が、重要な科学的成果であると結論づけています。

粒子が古典的なエネルギーが不足しているにもかかわらず障壁を乗り越えるトンネル効果を含む、化学における量子効果の理解は、絶えず拡大しています。今回の発見は、調整可能な電子特性を持つ先進的な材料の創出への道を切り開くものです。コズフ氏はさらに、低圧・低温の気相環境下で、この重ね合わせの状態を実験的に再現できる可能性についても言及しており、これは将来的な技術革新に向けた新たな展望をもたらすものと期待されます。量子化学の領域におけるこの知見は、次世代の分子エレクトロニクス開発の基礎を築くものとなるでしょう。

ソース元

  • Chemistry World

  • Nature

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