東京大学の化学者チームは、金ナノクラスター形成の初期段階を初めて観測し、予想外の構造「金量子ニードル」を明らかにしました。X線結晶構造解析を用いたこの研究は、原子集合体の成長メカニズムに新たな洞察を提供します。
100原子未満で構成される金ナノクラスターは、材料科学で長年注目されてきました。バルクの金とは異なる独自の光学的・電子的特性を持ち、触媒作用、検出、医療分野で有用です。長年の研究にもかかわらず、その合成方法は「ブラックボックス」とされてきました。
研究を主導した塚田竜也氏は、形成プロセスが「ブラックボックス」であったと説明し、チームは凝集体の初期段階を理解することで、新しい標的合成方法の開発を目指しました。高橋伸次郎氏、浜崎悠也氏、塚田竜也氏は、ナノクラスターの成長を人工的に遅くする戦略を採用し、合成条件を調整することで、初期段階の金凝集体を「捕捉」することに成功しました。これらのサンプルは単結晶X線回折で分析されました。
結果として、金ナノクラスターは球状ではなく異方的に成長することが判明しました。この成長の非対称性により、金の原子の三角形トリマーと四面体テトラマーからなる鉛筆状の集合体、「量子ニードル」が形成されました。「量子」という言葉は、これらの微細構造に閉じ込められた電子が離散的なエネルギー準位しか占有できないという基本的な現象を指します。この量子化により、金ニードルは近赤外領域で強い光応答を示し、生体組織深部まで浸透する能力を持ちます。
塚田氏は、異常な合成条件下での金ナノクラスター形成を説明できたとしつつも、三角形を基盤としたニードルの出現は想像を超えた発見だったと述べています。これらの「構造スナップショット」は、原子スケールでの物質集合を支配するメカニズムの理解に貢献し、合成を建築的な構築として捉えることを可能にします。初期段階をマスターすることは、将来的に特定の特性を持つオーダーメイドのナノ材料を設計する鍵となります。
東京大学チームは、合成条件をさらに洗練させ、他の未知の構造を探求する計画です。また、生物物理学やフォトニック工学の専門家と協力し、量子ニードルの優れた特性を活用することを目指しています。近赤外光との相互作用能力は、医療画像処理の解像度向上や、より効率的な太陽エネルギー変換デバイスにつながる可能性があります。X線回折は、ナノ材料の構造解析において、結晶構造、相組成、結晶粒径、ひずみ、配向性、テクスチャ、欠陥に関する重要な情報を提供する強力な手法であり、ナノ材料開発に不可欠なツールです。