研究者たちは、大規模な中性原子量子システムにおいて、3,000を超える量子ビット(qubit)をコヒーレントに操作・維持する連続動作を達成しました。この成果は、原子損失やパルス動作がスケーラビリティの障壁となっていた原子量子プロセッサにおける長年の課題を克服するものです。
中性原子は、量子シミュレーション、量子コンピューティング、計測、原子時計、量子ネットワークにおいて重要なプラットフォームですが、そのパルス動作は長らくボトルネックでした。光学ピンセットや格子に捕捉された原子は、デコヒーレンスや環境摂動により失われやすく、頻繁な再ロードが必要となり、量子操作を中断させていました。そのため、高スループットの量子処理とセンシングを実現するには、連続動作モードへの移行が不可欠な目標となっています。
この研究チームは、2つの光学格子「コンベアベルト」を備えた実験アーキテクチャを採用しました。これにより、コールド原子のリザーバーを「サイエンス領域」へ効率的に移動させ、制御と測定を行います。その後、原子は光学ピンセットへ選択的に抽出され、既存の量子ビットへの影響を最小限に抑えながら、量子ビットリポジトリとして機能します。このシステムは、毎秒30万個の原子を光学ピンセットへリロードする能力を示し、毎秒3万個以上の初期化された量子ビットを生成することを可能にしました。このスループットにより、3,000個を超える原子の量子ビットアレイを2時間以上にわたり組み立て、継続的に維持することができました。
このアプローチの重要な特徴は、保存されている量子ビットの量子状態を維持しながら、原子量子ビットアレイへの永続的な再充填能力です。研究者たちは、スピン分極した原子の供給や、コヒーレント重ね合わせ状態にある量子ビットの注入を実証しました。アーキテクチャが2つのコンベアベルトを使用することで、原子リザーバーとサイエンスプロセス領域を空間的に分離し、コヒーレンスを乱す可能性のあるノイズを軽減しています。
専門家は、中性原子量子ビットの進歩が急速に進んでおり、忠実度は「3つの9」に近づき、システムは数千の量子ビットへとスケールアップしていると指摘しています。量子ユーティリティのタイムラインは3年から30年と推定されていますが、長距離相互作用とゲート忠実度の制御における進歩が、この分野を前進させています。100万量子ビット規模へのスケーリングは長期的な目標ですが、現在のシステムは既に1000量子ビットの閾値を突破するなどのブレークスルーを示しています。連続動作能力は、耐故障量子コンピューティングの礎石と見なされています。
連続動作する中性原子システムがもたらす影響は計り知れません。原子時計は精度が向上し、量子センシングはデータ取得率の向上から恩恵を受けるでしょう。量子コンピューティングにおいては、この連続的かつコヒーレントな動作が、耐故障量子コンピュータの追求において中性原子アレイを最前線に位置づけています。また、スケーラブルな量子インターネットに不可欠な、堅牢な量子ネットワークの基盤も強化します。3,000量子ビットを超えるスケーリングや高度な制御技術との統合には課題が残るものの、この実証は中性原子量子デバイスの開発パラダイムを変革し、大規模かつ連続的に動作する次世代量子技術への道を開くものです。