ハーバード大学ジョン・ポールソン工科大学院(SEAS)の研究者たちは、細胞の自己組織化を解明するための計算フレームワークを開発しました。このアプローチは、深層学習モデルのトレーニングに不可欠な自動微分技術を活用し、遺伝子や細胞シグナルの微細な変化が細胞クラスターの最終的な形態にどのように影響するかを予測します。
2025年8月13日に「Nature Computational Science」に掲載されたこの研究は、「Differentiable programmingを用いた細胞クラスターの形態形成工学」と題されています。この研究は、細胞成長という複雑なプロセスを、コンピューターが解決できる最適化問題へと単純化することを目指しています。自動微分を用いることで、研究チームは複雑な関数を効率的に計算し、遺伝子ネットワークにおける小さな変化が細胞集団全体の挙動に与える影響を精密に検出することを可能にしました。
この計算アプローチは、特定の機能や形状を持つ生体組織の設計を可能にする可能性を秘めており、再生医療や組織工学の分野での進歩に貢献することが期待されています。この発見は、発生の細胞基盤を理解するための有望な道筋を提供するだけでなく、臓器の成長を工学的に設計するための道も開きます。
この研究は、大学院生のラミヤ・デシュパンデ氏とポスドク研究員のフランチェスコ・モテス氏が共同で主導し、応用数学・応用物理学の教授であるマイケル・ブレンナー氏がシニアオーサーを務めました。デファレンシブル・プログラミングは、AI分野で用いられる自動微分技術を生物学に応用するもので、複雑な生物学的システムをモデル化し、その挙動を予測する上で強力なツールとなっています。
この研究は、従来の試行錯誤によるアプローチから、より予測的で設計主導型の生物学研究への転換を示唆しています。将来的には、この計算フレームワークが、特定の機能を持つ生体組織の設計や、損傷した臓器の再生といった、再生医療分野におけるブレークスルーにつながる可能性があります。