デリー首都圏政府は、深刻化する冬季のスモッグに対処するため、今週から雲種まき(クラウドシーディング)の試験運用に着手した。この新たな試みは、大気中の浮遊粒子状物質を人工的な降雨によって洗い流すことを目的としており、大気質の改善という喫緊の課題に対する一時的な救済策として大きな注目を集めている。
この計画は、デリー政府とインド工科大学カンプール校(IIT Kanpur)が連携して推進している。2025年10月7日から11日の間に、デリー北部および北西部を対象に合計5回の作戦が予定されている。種まきにはセスナ206H型機が使用され、雲中にヨウ化銀などの薬剤を散布し、1フライトあたり100平方キロメートルの範囲で人工的な降雨を誘発することを目指している。この技術は、ヨウ化銀が氷の結晶構造と類似しているため、雲中の過冷却水滴を凍結させ、雨粒として落下させるメカニズムを利用する。
気象改変技術の歴史は古く、インド国内でもタミル・ナドゥ州やカルナータカ州などで干ばつ対策として降雨増強実験が行われてきた。しかし、デリーでの試みは水資源確保ではなく大気汚染対策という点で目的が異なり、専門家の間ではその有効性について慎重な見方が示されている。この技術の成功は、大気中に十分な水分量と、種まきに適した雲の存在という自然条件に大きく左右されるためである。
インド地球科学省(MoES)による過去の実験(2009年から2019年のCAIPEEX)では、好条件が揃った場合に降雨量が最大46パーセント増加したとの報告があるものの、デリーの状況では適切な雲の出現が限られることが課題として指摘されている。また、散布されるヨウ化銀の長期的な環境への影響や、排出源対策を講じなければ汚染が再発する可能性も懸念材料である。この実験は、インド民間航空総局(DGCA)の規制承認に基づき、厳格な安全手順を遵守して実施されており、得られる知見は今後の環境対策の道標となることが期待されている。
