南極海で20年以上にわたり観測されてきた謎めいた発光現象の原因が、微細な珪藻類とコッコリス類であることが特定されました。これまで衛星画像では北方に位置する「グレート・カルサイト・ベルト」のみに起因すると考えられていたこの異常な明るさは、南極海域の小さな生物によって引き起こされていたことが判明しました。
調査船R/V Roger Revelleに乗船した研究者たちは、60度南緯線まで航海し、水の色彩、反射率、生物群集に関する広範な測定を実施しました。この詳細な調査により、ガラス質のケイ素殻に覆われた微細な珪藻類が、この発光現象の主な原因であることが確認されました。さらに、コッコリス類もこれらの冷たい南極海域で生存可能であり、栄養塩循環に寄与する「種子集団」として機能する可能性も示唆されています。
これらの発見は、南極地域が主要な炭素貯蔵庫であり、気候変動がこの地域に及ぼす継続的な影響を考慮すると、非常に重要です。南極海は地球規模の炭素循環において極めて重要な役割を担っており、大気中の二酸化炭素の約1割を吸収していると見積もられています。この吸収プロセスには植物プランクトンの光合成が不可欠であり、特に珪藻類が優占する年には、海洋への二酸化炭素吸収量が増加する傾向があることが示されています。
しかし、気候変動はこれらの微細藻類の群集構造に変化をもたらす可能性が指摘されており、それが海洋の炭素循環にどのような影響を与えるのか、さらなる解明が求められています。例えば、南極海の海氷の変化は、植物プランクトンのブルーム(大増殖)の頻度や規模に影響を与え、それが炭素循環や海洋生態系全体に波及することが示唆されています。過去の研究では、珪藻類のケイ素殻が炭素を深海へ運ぶ役割を担うと考えられていましたが、近年の調査では、殻が海面近くに留まる一方で炭素は深海へ到達するという、生物学的炭素ポンプのメカニズムを再考させる発見もあります。
南極海におけるこれらの微細な生命活動と、それが地球の気候システムに与える影響を理解することは、気候変動の将来予測精度を高める上で不可欠です。科学者たちは、今後も調査海域を拡大し、植物プランクトンの変化が海洋の炭素循環に与える影響の解明を進めることで、より精緻な気候変動予測に貢献していくことを目指しています。