スイス政府は、新たな原子力発電所の建設を禁止する法案を提出しました。これは、2018年1月1日から施行されている原子力エネルギーからの段階的撤退という政策の流れに沿った動きです。この提案は、「斜面の廃棄物停止」と呼ばれるイニシアチブと関連しており、原子炉建設のライセンス申請は、議会の承認と国民投票を経て行われることになります。推進者たちは、この法改正により、原子力エネルギーの禁止に向けた手続きが簡素化されると考えています。
スイスの原子力政策は、2011年の福島第一原子力発電所事故を受けて大きく転換しました。2017年に採択された「エネルギー戦略2050」では、原子力からの段階的撤退が決定され、2018年1月1日からは新規建設の一般ライセンス発行が禁止されています。この流れは、隣国ドイツが2023年に原子力発電を完全に停止したこととも呼応しています。
スイスの原子力発電容量の約60%を担うAxpo Holdings AGは、現時点では新規建設や投資の計画はないと表明しています。同社はまた、将来的な原子力プロジェクトにおいては、企業単独では規制や財務のリスクをすべて負担することが難しいため、何らかのリスク共有が必要であると指摘しています。Axpoは、世界で最も古い部類に入るベズナウ原子力発電所の運転を、2033年まで延長する計画も進めており、安全性を最優先とした大規模な投資を行っています。
国民の原子力エネルギーに対する見解は分かれています。2023年2月に実施された世論調査では、スイス国民の約49%が原子力エネルギーの継続的な利用を支持する一方、38%が反対しています。この結果は、エネルギー安全保障と気候目標達成の両立を目指す中で、原子力発電の役割について多様な意見が存在することを示唆しています。
今回の政府提案は、「ストップ・ザ・ブラックアウト」という国民発議に対する対案として位置づけられています。政府は、憲法改正よりも迅速かつ確実な法改正を目指すこの対案を推進しており、国民投票による不確実性を回避しようとしています。議員は2026年8月までに両案を決定する予定で、国民発議が取り下げられない場合は、最終的に国民投票でその是非が問われることになります。
エネルギー安全保障、特に冬季の電力供給の安定化は、スイスにとって引き続き重要な課題です。再生可能エネルギーへの移行が進む中でも、原子力は、その役割について継続的な議論の対象となっています。スイスは、エネルギー供給の安定化と気候目標達成の両立を目指す中で、技術的な選択肢を広く保持することの重要性を再認識し、エネルギー政策のあり方を模索しています。この法案の行方は、スイスのエネルギーの未来を形作る上で、重要な一歩となるでしょう。