2025年8月10日現在、ハイチは深刻なギャング暴力と政治的不安定に直面しており、国際社会からの介入が喫緊の課題となっています。米国は、国連安全保障理事会に対し、ハイチ国家警察（HNP）を支援し、蔓延するギャング暴力に対抗するための多国籍治安ミッションの展開を求める決議案を提出しました。この提案は、2021年7月のジョベネル・モイーズ大統領暗殺以降、国を苦しめている壊滅的な状況に対応するものです。
国連の報告によると、2025年前半だけで4,000人以上が死亡し、130万人以上が家を追われています。特に、2025年初頭から性的暴力をはじめとする暴力が急増しており、女性や少女が最も脆弱な立場に置かれています。国連人権高等弁務官事務所（OHCHR）の集計では、2024年には少なくとも5,601人がギャング暴力で死亡し、2,212人が負傷、1,494人が誘拐されています。首都ポルトープランスの約90%はギャングの支配下にあり、この状況は国際社会の迅速な対応を求めています。
このミッションの成功は、特に中国とロシアを含む全ての安全保障理事会メンバーの協力にかかっています。中国とロシアは、ハイチに平和が存在しないことを理由に、ミッションを国連平和維持活動に格上げすることに反対しています。彼らは、現在の状況下での平和維持活動の展開は、平和維持部隊を紛争の最前線に置くことになると主張しています。過去の国連ミッション（MINUSTAHなど）における課題や、ハイチ国内の政治的・社会経済的状況の複雑さが、国際的な介入の難しさを浮き彫りにしています。
ハイチ国家警察は、装備不足、組織的な課題、そして汚職といった多くの困難に直面しており、その能力強化が急務です。2023年には、ギャングの武器へのアクセスが前例のないレベルに達し、組織化された「暴力的な起業家」へと変貌を遂げています。このような状況下で、食料不安も深刻化しており、特に女性や子供たちへの影響は甚大です。多くの女性が、食料を得るために搾取や暴力のリスクにさらされています。
米国は、ハイチの安定と治安回復のために、国連が唯一の解決策であると強調しています。この多国籍治安ミッションは、ハイチ国家警察の能力を強化し、ギャングの支配を打破し、国民の安全を確保するための重要な一歩となることが期待されています。しかし、国際社会の足並みが揃うかどうかが、この提案の実現に向けた鍵となります。ハイチが直面する危機は、治安だけでなく、人道支援、経済復興、そして法の支配の確立といった多角的なアプローチを必要としており、国際社会の継続的な支援と協力が不可欠です。