2025年ノーベル化学賞:金属有機構造体(MOF)が拓く持続可能な未来
編集者: gaya ❤️ one
2025年10月8日、スウェーデン王立科学アカデミーは、金属有機構造体(Metal-Organic Frameworks, MOF)の革新的な開発を讃え、三名の先駆者、日本の北川進氏(京都大学)、オーストラリアのリチャード・ロブソン氏(メルボルン大学)、そしてアメリカのオマー・M・ヤギー氏(カリフォルニア大学バークレー校)にノーベル化学賞を授与すると発表しました。この栄誉は、分子レベルでの精密な物質設計が、人類の地球規模の課題解決に新たな可能性をもたらした功績を認めたものです。授賞式は、伝統に従い、2025年12月10日にスウェーデンのストックホルムで執り行われる予定です。
MOFは、金属イオンと有機配位子が規則正しく結合することで形成される、分子レベルの無数の「孔」を持つ多孔性結晶材料です。この構造は、従来の密に詰まった固体とは一線を画し、「化学の新しい建築学」とも称される概念を確立しました。ノーベル化学委員会のハイナー・リンケ委員長が指摘したように、MOFの可能性は計り知れず、新しい機能を持つ材料を生み出す前例のない機会を開きます。ロブソン教授は1989年に三次元的に連結した配位高分子構造の合成に成功しましたが、初期の構造は脆いという課題を抱えていました。この発見は、固体内部の空間に分子が出入りする可能性を示唆するものでした。
その後の研究の進展において、北川氏は1997年に決定的な飛躍をもたらしました。彼は、ゲスト分子(気体など)を除去した後も構造が崩れず、気体を大量に取り込める「ソフト多孔性結晶」の概念を実証したのです。これにより、MOFは学術的な関心から、実用的な機能性材料へとその道を歩み始めました。一方、ヤギー教授は1995年に安定した網目構造を持つ材料を報告し、MOFと命名、体系的な合成法の確立に貢献しました。1999年には、ヤギー教授は超高多孔性材料であるMOF-5を発表しました。その内部表面積は非常に大きく、わずか数グラムでサッカー場に匹敵するほどです。これらの貢献が組み合わさることで、MOFは現在、数万種類が合成され、数十万種類の構造が理論的に予測されるほどの爆発的な発展を遂げています。
この革新的な材料がもたらす恩恵は計り知れません。MOFの最大の特徴は、その極めて高い比表面積にあり、わずか1グラムでサッカー場ほどの表面積を持つこともあります。この巨大な内部空間を利用することで、二酸化炭素(CO2)の効率的な捕捉、水素ガスの高密度貯蔵、さらには砂漠の空気からの水分回収といった、環境とエネルギーに関する喫緊の課題に対する具体的な解決策が期待されています。2022年には、ヤギー教授のグループはデスバレーでMOFの試験を行い、1キログラムの材料で乾燥した空気から1日に114〜210グラムの水を抽出できることを実証しました。また、MOFは触媒としての機能も持ち、有機汚染物質の分解など、化学プロセスにおける新たな役割も担うと見られています。さらに、2020年にはヤギー教授は、炭素回収と大気からの水収集のためのMOF技術の商業化を目指すスタートアップ企業Atocoを設立しました。
今回の受賞は、基礎科学の探求が、いかにして社会全体の調和と持続可能性への道筋を照らし出すかを示す好例です。研究者たちが粘り強く新しい構造の可能性を追求し続けた結果、今、地球規模の課題に対する具体的な対応策が、分子レベルの設計図から具現化されようとしています。北川特別教授は、この栄誉を、共に研究を進めてきた同僚や学生たちへの感謝の念と共に表明しました。
ソース元
Deutsche Welle
Press release: Nobel Prize in Chemistry 2025
Nobel for chemistry won by Susumu Kitagawa, Richard Robson, Omar Yaghi
Susumu Kitagawa, Richard Robson and Omar Yaghi win the 2025 Nobel Prize for Chemistry
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