米国は、インドがロシア産原油の輸入を継続していることを理由に、インドからの輸入品に対する追加関税を発表し、予定されていた貿易交渉を中止しました。この措置は、両国間の貿易関係に緊張をもたらし、今後の二国間合意の進展に不確実性をもたらしています。
当初、米国とインドは2025年8月25日から29日にかけてニューデリーで第6回二国間貿易協定(BTA)交渉を行う予定でした。しかし、米国大統領はインドのロシア産原油輸入を理由に、インドからの輸入品に対する追加関税を発表しました。これにより、一部のインド産品の関税は最大50%に引き上げられることになります。この決定は、インドの輸出に大きな影響を与える可能性があり、特に繊維、宝石、自動車部品などの労働集約型産業に影響が及ぶと見られています。
インドは、経済的要因とエネルギー安全保障の必要性からロシア産原油の輸入を継続しており、この輸入は同国のエネルギー需要の大部分を賄っています。インド政府は、自国の農家や漁師の利益を保護するという立場を強調しており、特に農産物や乳製品分野における市場アクセスの要求に対しては譲歩しない姿勢を示しています。インドのモディ首相は、国民の独立記念日の演説で、農家を守るために「壁のように立つ」と述べ、国内産業の自立を訴えました。
今回の貿易交渉の中止は、両国間の経済的および地政学的な複雑さを浮き彫りにしています。米国は、ロシアへの経済的圧力を強化する一環としてインドの行動を問題視していますが、インドは、自国の国益とエネルギー安全保障を確保するための措置であると主張しています。この状況は、両国が経済的目標と地政学的な配慮のバランスをどのように取るかという課題を提起しています。
両国は2025年秋までにBTAの第一段階を完了し、2030年までに二国間貿易を現在の1910億ドルから5000億ドル以上に倍増させるという野心的な目標を掲げていますが、今回の関税問題と交渉の中止は、これらの目標達成に影響を与える可能性があります。インドの輸出業者は、米国市場での競争力を維持するために、代替市場の開拓や生産コストの削減といった戦略を模索する必要に迫られています。