チェコ共和国は、第98回アカデミー賞国際長編映画賞部門への出品作品として、ドキュメンタリー映画『私はなりたい自分にはまだなれない』(原題:I'm Not Everything I Want to Be)を選出した。クララ・タソフスカ監督による本作は、写真家リブシェ・ヤルコヴィヤコヴァーの人生と、1980年代のプラハのアンダーグラウンドLGBTQ+シーンを捉えたポートレートである。コミュズム体制下のゲイクラブの記録や、西ベルリンへの亡命、そして東京でのファッション撮影といった彼女の活動に光を当てている。
本作は、ベルリン国際映画祭やヌーヴォー・シネマ国際映画祭をはじめとする国際的な映画祭で数々の賞を受賞しており、芸術性と歴史的価値が国際的に認められている。特にベルリン国際映画祭ではドキュメンタリー賞部門にノミネートされ、高い評価を得た。また、2025年初頭にはチェコ国内で最も権威ある映画賞であるチェコ・ライオン賞で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞し、国内での評価も確固たるものとした。アカデミー賞の選考プロセスでは、2025年12月中旬にショートリスト(候補作品15本)が発表され、2026年1月下旬に最終ノミネート作品が発表される。授賞式は2026年3月15日に開催予定だ。チェコ共和国がドキュメンタリー作品をオスカー国際長編映画賞部門に選出したのは、歴史上初めてとなる。過去には、『大通り』、『厳重に監視された列車』、『コーリャ』などが同賞を受賞しているが、ドキュメンタリー作品の選出は新たな歴史を刻むことになる。
本作の選出プロセスでは、チェコ映画テレビアカデミーが初めて二段階の投票プロセスを導入した。この新しい選考方法については一部の映画製作者から異論も出ているが、アカデミーはこのプロセスを維持し、歴史的な一歩を踏み出した。ヤルコヴィヤコヴァーの私的な日記や数千枚に及ぶアナログ写真から紡ぎ出される本作は、個人のアイデンティティ、自由、そして抑圧された時代における内なる抵抗という普遍的なテーマを探求しており、多くの観客の共感を呼ぶことが期待されている。彼女の作品は、しばしばナン・ゴールディンと比較され、その生々しくも親密な描写で知られている。このドキュメンタリーは、チェコの暗い時代における隠された文化と、それを記録した一人の女性の力強い生き様を浮き彫りにしている。