グリーンランド氷河の落氷が融解を加速させる新メカニズムを発見、海面上昇予測に影響か

グリーンランドのEqalorutsit Kangilliit Sermiat（EKaS）氷河において、氷河の落氷（カービング）によって生じる波や海流が氷河下の融解を促進する「カービング・マルチプライヤー効果」が新たに確認されました。この現象は、氷河の後退を加速させ、海面上昇予測の精度向上に不可欠な知見となります。デンマークとスイスの研究者チームは、EKaS氷河の氷河前線付近の海底に光ファイバーケーブルを設置し、分散型音響センシング（DAS）技術を用いて落氷イベントによる振動や水流の変化を詳細に記録しました。この技術により、これまで観測が困難だった氷河の落氷が引き起こす水理学的プロセスを安全な距離から捉えることが可能になりました。

研究によると、巨大な氷塊が剥がれ落ちる際に発生する津波のような波が、フィヨルド内の水層をかき混ぜ、深層の暖かい海水を表層に引き上げます。この暖かい海水が氷河の基部に接触することで、氷河下の融解が促進され、侵食が加速します。さらに、落氷によって生じた氷山が移動する際にも同様の「内部波」が発生し、水温の混合を持続させ、氷河の融解を増幅させることが明らかになりました。このプロセスは、特に海流の遅い場所で顕著であり、落氷による水流の乱れが海洋の通常の混合作用よりも大きな影響を与えることが示唆されています。この「カービング・マルチプライヤー効果」は、従来の氷河融解モデルでは過小評価されていた可能性があり、グリーンランド氷床全体の質量損失と海面上昇への寄与を再評価する必要性を示唆しています。グリーンランド氷床は、その融解が完了した場合、世界の海面を約7メートル上昇させる潜在能力を持っています。近年の研究では、グリーンランド氷床からの氷の損失は、過去12,000年間で最も速いペースで進行していると指摘されており、この新たな発見は、その加速メカニズムを理解する上で重要な一歩となります。この研究成果は、Nature誌に掲載され、氷河のダイナミクスと海洋との相互作用に関する理解を深めるものです。この技術は、他の氷河でのモニタリングにも応用可能であり、将来の気候変動予測や海面上昇予測の精度向上に貢献することが期待されています。