中国の同済大学の研究者らによる『Science China Earth Sciences』に発表された最新の研究によると、東南極氷床の質量が2021年から2023年にかけて予期せぬ増加を示しました。NASAのGRACEおよびGRACE-FO衛星からのデータを分析した結果、ウィルクスランドとクイーンメアリーランド地域では、この期間中に年間平均108ギガトンの氷が増加したことが観測されました。この発見は、近年の南極氷の融解傾向とは一線を画すものであり、特にトッテン氷河、デンマン氷河、モスクワ氷河などの主要な氷河では、異常な降雪量により質量減少傾向が反転しました。科学者たちは、この現象を、より暖かく湿潤な大気がもたらした豊富な降雪が新たな氷を形成したことによるものと分析していますが、専門家はこれが地球温暖化の減速を示唆するものではないと注意を促しています。
この質量増加は、南極大陸からの海面上昇への寄与を年間約0.3ミリメートル減少させましたが、西南極では依然として高い割合で氷が失われており、大陸全体の氷の収支は依然としてマイナスです。この予期せぬ変化は、気候システムの複雑さを浮き彫りにしています。南極氷の挙動は、海洋温度、大気循環、水蒸気量のわずかな変動に左右されます。研究者らは、この現象が一時的なものである可能性を指摘しており、温暖な気候では大気がより多くの水分を保持できるため、極端な降雪イベントの可能性が高まることを説明しています。トム・スレーター氏(ノース・アンブリア大学)は、「温暖な気候では大気がより多くの水分を保持でき、東南極での最近の質量増加を引き起こした大雪のような異常気象の可能性が高まります」と述べています。また、ジェームズ・カークハム氏(国際クライオスフィア気候イニシアチブ)は、「NASAが2025年までに報告している最近のレベルは、この急激な増加が起こる前の2020年頃のレベルと似ています」と指摘しており、この増加傾向は2024年以降停止した可能性が示唆されています。
東南極氷床は、地球の淡水の大部分を保持しており、その安定性は地球の気候システムにおいて極めて重要です。GRACEおよびGRACE-FO衛星ミッションは、地球の重力場の変動を測定することで、これらの氷床の質量変化を監視する上で不可欠な役割を果たしています。しかし、この期間中の質量増加は、1980年代以降続く南極氷の長期的な減少傾向を覆すものではありません。2010年代には年間平均142ギガトンの氷が失われていたのに対し、今回の増加は一時的なものと見られています。科学者たちは、この結果が気候変動のパラダイムシフトを示すものではないと強調し、地球の将来的な進化を真に理解するためには、長期にわたる高解像度の観測が不可欠であると呼びかけています。この出来事は、地球のシステムが予測通りに常に動くわけではないという事実を改めて示唆しています。