エルメス：財務的堅牢性と次世代への移行、そしてクチュールへの挑戦

エルメス（Hermès）は、2025年第3四半期において目覚ましい財務的堅牢性を示し、売上高は39億ユーロに達しました。これは、前年同期比で比較可能な為替レートに基づき9%の成長を記録したことになります。この成果は、ラグジュアリー部門全体が直面する一般的な不安定さとは対照的であり、同社の戦略の有効性を裏付けています。エルメスは、販売量を積極的に増加させるのではなく、「希少性」と「最高の職人技」という哲学に根差したアプローチを堅持しています。

この安定性の主要な牽引役となっているのは、伝統的に強固な基盤を持つ皮革製品部門であり、8.1%の成長を達成しました。バーキンやケリーといった象徴的なモデルに対する需要は衰えることなく、メゾンの財務的な健全性を支え続けています。また、生産ペースを維持し、独自の職人技術を守るため、エルメスは製造ネットワークの拡充を進めています。フランスのリル＝デスパーニャックに25番目となる専門的なアトリエを開設しました。これは、同社の製品が細部にわたる手作業の結晶であることを改めて示す狙いがあると考えられます。

財務的な成功と並行して、エルメスはメンズ部門において重要な人事異動に着手しました。グレース・ウェールズ・ボナー氏が、メンズ・レディ・トゥ・ウェアラインの新しいクリエイティブ・ディレクターに任命されました。この人事は、ファッション業界において歴史的な意味合いを持ちます。彼女は、欧州の主要なファッションハウスにおいてデザイン部門のトップを務める初の黒人女性となります。

ウェールズ・ボナー氏は、37年間にわたり同職を務めたヴェロニク・ニシャニアン氏の後任となります。ニシャニアン氏の退任コレクションは2026年1月に発表される予定であり、ウェールズ・ボナー氏によるデビューコレクションは、その翌年の2027年1月に予定されています。この世代交代は、メゾンの将来に向けた明確な革新の方向性を示すものです。

ウェールズ・ボナー氏は、自身の持つ英国とジャマイカのヘリテージに基づいた文化的物語と、洗練されたテーラリング技術を融合させるアプローチで知られています。ジェネラル・アーティスティック・ディレクターのピエール＝アレクシ・デュマ氏は、彼女の持つ探究心と現代的な視点が、エルメスの豊かな遺産と調和的に補完し合うだろうとコメントしました。この人選は、エルメスが意義ある発展を通じて進化を目指す姿勢を象徴しています。

さらに、エルメスはオートクチュール部門への参入という野心的な計画を積極的に推し進めています。この初のコレクションの発表は、2027年を目標としています。財務的な安定と革新的な人事、そしてクチュールへの挑戦を通じて、エルメスはラグジュアリー業界における独自の地位をさらに確固たるものにしようとしています。